何故このミスは乃南アサを取り上げない?グリグリの本命・浅田次郎センセ―の直木賞の夢をかみ砕いたのは、狼犬の『凍える牙』だった!
対象は1995年11月ー1996年10月。印象に残っているのは、『蒼穹の昴』で浅田次郎さんが1996年上半期の直木賞を獲れなかったことです。グリグリの本命だったと思います。阻んだのは『凍える牙』。当時、乃南アサさんのことをよく知らず、ちょっと意外でした。そして、今では音道貴子シリーズほか、乃南さんは愛読する作家さんなのですが、浅田センセ―以上にこのミスと縁がないことはもっと意外です。
現実として中国人マフィアが青龍刀を振り回していた当時、大インパクトで度肝を抜いた男、それは昨年まで投票者だった板東齢人だった!
さて、この年は『不夜城』に尽きるでしょう。「周星馳(香港の映画俳優)じゃねえの?」「この愛想のない表紙なんだよ?」となる前に、書店員さんがポップで褒めちぎっていましたね。それにしても、ぶっきらぼうな表紙。よっぽど自信があったんでしょうな。現実に中国人マフィアのおっかない事件が報じられる中、題材は歌舞伎町を舞台にした中国人の覇権抗争。それだけでもインパクト大ですが、日台混血の劉健一という主人公の圧倒的な孤独感、四面楚歌の絶体絶命状態、ひりつくような暴力シーン。何より、「ここから思いついて書いた」という衝撃のラスト。このミスによると「該当期間に本名作が現れず、混とんとしていた」というようなことが書いてあります。昨年まで投票者であった青年書評家が、錚々たる常連作家の追随を許さず、一夜にしてスターダムにのし上がるという快挙!ジャパニーズ・ドリームはあったのです。
2位以下も面白いが、さすがに相手が悪すぎた。ATMの識別システムを騙せ!真保裕一の『奪取』は前代未聞の偽札小説!
このほかでは、真保裕一さんの2位『奪取』。偽札造りを題材にした小説は数あれど、こんなに出来栄えの悪い「雑な偽札」の話は読んだことはなかった。人ではなく、ATMを騙す!魅力のすべては読んでこそでしょう。例によってディテールに凝りまくっており、複雑な印刷技術の話も楽しい限りですな。
このほかでは、東野圭吾さんの3位『名探偵の掟』、倉知淳さんの12位『星降り山荘の殺人』なども面白かったです。大沢在昌も、浅田次郎も、京極夏彦も、白川道も、宮部みゆきも入っている。それでも、1位が凄すぎた。結局、馳星周の年ということです。
1997年『このミステリーがすごい!』ベスト20
- 1位 不夜城 馳星周
- 2位 奪取 真保裕一
- 3位 名探偵の掟 東野圭吾
- 4位 蒲生邸事件 宮部みゆき
- 5位 海は涸いていた 白川道
- 6位 蒼穹の昴 浅田次郎
- 7位 鉄鼠の檻 京極夏彦
- 8位 家族狩り 天童荒太
- 9位 雪蛍 大沢在昌
- 10位 人格転移の殺人 西澤保彦
- 11位 あした蜻蛉の旅 志水辰夫
- 12位 星降り山荘の殺人 倉知淳
- 13位 どちらかが彼女を殺した 東野圭吾
- 14位 かくも短き眠り 船戸与一
- 15位 龍臥亭事件 島田荘司
- 15位 蟹喰い猿フーガ 船戸与一
- 17位 時の誘拐 芦辺拓
- 18位 ゴサインタン 篠田節子
- 18位 理由はいらない 藤田宜永
- 20位 ただ去るが如く 香納諒一
ルテインを飲んでいる老眼っす…
意外と絶版が多いことに気付きました。救いましょう!
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