- 桜庭一樹も米澤穂信もここから売れた!東京創元社のミステリ・フロンティアを買っておけばハズレはない!~2007年版『このミステリーがすごい!』ベスト20
- 個人的に、道尾秀介で推したい一冊は、最低最悪の読後感、でも、着地点が見事なまでに美しい17位の「向日葵の咲かない夏」!
- 言葉選びのセンスから鋭すぎる観察眼まで圧倒的に抜きん出ていた!祝、戴冠!『独白するユニバーサル横メルカトル』の頃からホラーの枠には収まり切らなかったザ・文学の平山夢明!
- 天才の天才たる所以を一発で理解できる5時に夢中!の「ひら散歩」
- 「読書がつまらなくなったらこういう本でも読んでみれば?」と仰られていますが、天才の世界は一度ハマったら抜け出せません!この言葉は救いの手であると同時に、底なし沼への片道切符です!
- 短編5作を収録した『ガール』……あくまで過去形ですが、奥田英朗ファンとしては、ちょっと苦手な部分や固有名詞が多く、複雑な思いが入り混じる短編集でした
- 最後に……笑
桜庭一樹も米澤穂信もここから売れた!東京創元社のミステリ・フロンティアを買っておけばハズレはない!~2007年版『このミステリーがすごい!』ベスト20
順位 | 作品名 | 著者名 |
---|---|---|
1位 | 独白するユニバーサル横メルカトル | 平山夢明 |
2位 | 制服調査 | 佐々木譲 |
3位 | シャドウ | 道尾秀介 |
4位 | 狼花 新宿鮫Ⅸ | 大沢在昌 |
5位 | 銃とチョコレート | 乙一 |
6位 | 名もなき毒 | 宮部みゆき |
7位 | 贄の夜会 | 香納諒一 |
8位 | 怪盗グリフィン、絶体絶命 | 法月綸太郎 |
9位 | 赤い指 | 東野圭吾 |
10位 | 夏季限定トロピカルパフェ事件 | 米澤穂信 |
10位 | デッドライン | 建倉圭介 |
12位 | 邪魅の雫 | 京極夏彦 |
13位 | 顔のない敵 | 石持浅海 |
14位 | 落下する緑 | 田中啓文 |
15位 | ボトルネック | 米澤穂信 |
16位 | 宿命は待つことができる | 天城一 |
17位 | 向日葵の咲かない夏 | 道尾秀介 |
18位 | Op.ローズダスト | 福井晴敏 |
19位 | 乱鴉の島 | 有栖川有栖 |
20位 | 冬の砦 | 香納諒一 |
ツンドクの山と格闘したりしていて、日記のリライトをすっかり忘れておりました。年を取ると読むのがドンドン遅くなっていきます。また、2025年は年初からいろいろありまして、どうにもこうにもツキがありませんが、心機一転、今年は再読も含めて頑張りたいと思います。なお、本稿も「このミステリーがすごい!」を振り返った後、奥田英朗さんが当該期間に発表された作品について触れていきたいと思います。
対象は2005年10月ー2006年11月。この当時の私はいったい何を根拠に本を選んでいたのかよく覚えていないのですが、「本をジャケ買い」することに凝っていたことだけは間違いないようです。例えば、東京創元社の「ミステリ・フロンティア」はその典型。確かに、かの有名な青い装丁の本を買っておけば、並べた時の見た目もよろしい。そして、結果的にこれが大当たりだった訳です。桜庭一樹さん、米澤穂信さん、伊坂幸太郎さん……をはじめ、とてつもないビッグネームを多数輩出したのですから「優れた書籍の想定は美しい」という素人の本選びもあながち間違いではなかったのかもしれません。そして、この理屈でいきますと、道尾秀介さんの3位『シャドウ』は迷わず手に取ることができました笑
個人的に、道尾秀介で推したい一冊は、最低最悪の読後感、でも、着地点が見事なまでに美しい17位の「向日葵の咲かない夏」!
ただし、個人的に絶対的に推したいのは、17位の『向日葵の咲かない夏』のほうです。最近、氏の作品とは距離ができてしまい、作風をよく存じ上げていないのですが、確かデビュー作はホラーサスペンス大賞特別賞の『背の目』だったはずです。氏の文章は読みやすく、とにかく上手い!本書は巧みな一人称の児童文学のような味わいがあり、知らず知らずのうちに読み進めていると、ラストで背筋が凍るようなどんでん返しが待っています。
「分類不能、説明不可、ネタバレ厳禁!超絶・不条理ミステリ」とこのミスには記してありますが、私が言葉を添えるなら「胸くそ悪く、最低の読後感が最高」といったところでしょうか。この本こそ、何かを語ることがネタバレにつながりかねず、映像化は絶対に不可能な作品。こう書くことさえ、ある種のネタバレでもあります。なので“小学生の男の子と妹の物語”とだけ。精神的に余裕がある時に読むことをお勧めします。
言葉選びのセンスから鋭すぎる観察眼まで圧倒的に抜きん出ていた!祝、戴冠!『独白するユニバーサル横メルカトル』の頃からホラーの枠には収まり切らなかったザ・文学の平山夢明!
さて、この年は最強にして最凶、平山夢明さんの1位『独白するユニバーサル横メルカトル』に尽きるでしょう。このミスがなければ、ホラーが苦手な私が手に取ることはなかったですし、このミスを読んでいて本当によかったと実感した年でした。所謂、平山さんは「誰もが認める天才」です。言葉選び、キャラクターのぶっとんだ造形美、物語の設定や展開、すべてが未知の体験。そして、当時から既にたくさんの作家さんから愛され、心から尊敬されていたことを後になって知りました。
こちらは2009年度のこのミスで15位となった『ダイナー』の帯文です。北方謙三御大が一文を寄せているだけでも驚きですが、なんと「作品がまだ完成していないのに、平山から帯文を頼まれた」という北方さんの話は、本当なのでしょうか。しかし、それが許されてしまうのが、人間味あふれる偉才ということなのでしょう。おふたりのやり取りを想像するだけで笑いが止まりません。
こちらは2013年度版で18位となった『或るろくでなしの死』の帯です。先ほどご紹介した道尾秀介さんが「平山さんは僕たちのヒーローです」とまで言っているばかりか、なぜか、辻村深月さんが「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」としきりに許しを請うように謝っています。現在、おふたりは直木賞作家。ほかにも平山さんの人柄と才能を讃える文章を読んだことは数え切れません。これは残酷で下品なようで、圧倒的に美しい知的な言葉遣い、そして、数々の人生体験に裏打ちされた優しい精神が作品の根底にあるからだと私は考えています。
天才の天才たる所以を一発で理解できる5時に夢中!の「ひら散歩」
平山さんの凄さを端的に知ってもらうのに適当な題材がYouTubeにありました。現在は番組をまったく見ていないので、コーナーが存続しているのか存じ上げませんが、以前は東京MXテレビの『五時に夢中』にたまに代打出演する際「ひら散歩」という散歩番組のパロディのようなコーナーをなさっていました。この動画をご覧になっていただけばわかるように、まったく予期せぬ角度から物事を捉える観察眼と対象に添える瑞々しいまでの言葉に舌を巻くはずです。凡人にはこんな発想は絶対に出てこないと思います。また、スムージー屋のくだりを見るだけでも、人生のぶ厚さが違う!本の内容はこんなにポップではないですが、この動画を見るだけで興味が湧いてくると思いますよ。
「読書がつまらなくなったらこういう本でも読んでみれば?」と仰られていますが、天才の世界は一度ハマったら抜け出せません!この言葉は救いの手であると同時に、底なし沼への片道切符です!
この8編が織りなす珠玉の短編集、私はすべて好きですが、初めての方には表題作はもちろん『Ωの聖餐』などいかがでしょう。飲酒運転で死亡事故を引き起こした数学者が、体重400㎏の男の世話係に身を落とした話です。元サーカスの大食い男が食らうのは「人」。食べた人数分の脳に詰まった知識を蓄えた男との対話は哲学的ですらあります。どうやって食べさせるのかは、あまりにグロいので自粛。ただし、言えることは、単純なホラーではないこと。知的な美文が散りばめられており、愛称のネーミングセンスからして、とにかく面白い!
このミス20周年に刊行された『もっとすごい!!このミステリーがすごい!』のインタビューの中で平山さんは次のように話しています。
「もし、本を読むのがつまらなくなったと思った時は、ぜひこういう(ジャンルの)本を読んでみて欲しいですね。それで、こういう本ばかり読んでいると、今度はまた普通の本を読んでみたくなるから」
とはいえ、ハマったら最後の片道切符。本書の8編のうち5編は井上雅彦氏監修のホラーアンソロジー『異形コレクション』に収録されているのだとか。このアンソロジーに収められることは、生半可のレベルでは難しく、ホラー界では偉業であると、このミスには記されています。
怖い話がどうしても苦手な私は初期の『いま殺りにいきます』あたりは敬遠してしまいますが、現在は枠組みを超えて活躍されていますし、多彩なボキャブラリーと無二の世界観に惹かれるスペシャルな作家さんです。一番左のカバーを紛失してしまった作品は『ミサイルマン』。この写真に収めた作品はいずれも問答無用の面白さです。でも、入門となりますと、やはり『独白するユニバーサル横メルカトル』になるのかなあ。現在はYouTubeで映画のチャンネルの運営もなさっており、偉才の活躍からますます目が離せません。
短編5作を収録した『ガール』……あくまで過去形ですが、奥田英朗ファンとしては、ちょっと苦手な部分や固有名詞が多く、複雑な思いが入り混じる短編集でした
さて、奥田英朗さんの作品に話を移しましょう。この期間には、2006年1月に短編5作を収録した『ガール』が刊行されていたようです。いずれも、2003年8月から2005年8月まで「小説現代」で連載されていた作品です。ただ、最初にお断りしておきます。奥田ファンだからといって、すべて手放しで褒める訳ではありません。長年、ちょっぴり苦手だと感じていた作品が複数含まれることを最初に記しておきます。
このミスのデビュー作となる『最悪』が刊行されたのが1999年、続く二文字作品の大出世作『邪魔』は2001年の刊行です。それから、わずか数年後ですから、正直、読んだ当時の感覚としては「こういうセレブOLに媚びたような話も書くのか…」と思い、がっかりした記憶があります。ただし、今回、再読してみて、奥田英朗がそんなに浅いはずがなかった、こんな感想を持ちました。
まずは、当時は好きでなかった話のあらすじというか、設定をざっとご紹介します。
『ヒロくん』:好きでなかった話①
36歳の若さで大手不動産会社の開発局第二営業部第三課長に抜擢された武田聖子の話。ただ、順風満帆に事が運ぶ訳もなく、部下に3歳年上のデキる男を持つことになり、デキる女にもそれなりの試練が待ち受けています。ちなみに、高級タワマン住まいで、自分よりはるかに安い給料の夫は中堅音響機器メーカー勤務。子供はいません。
- それはクレジットカードがゴールドに切り替わったときの優越感に似ていた。
- 「……わたし、マッサージチェア、買うからね」冷たい目で言った。
- 「だめでしょう。プランのない意見は進行の妨げになるって、いつも言っているでしょう。あらかじめ設計図をいただいてるんだから、プランを練ってから発言するようにしてください(中略)だから何をどうすればいいのか、具体的な案を言わないと、みなさんわからないでしょう」
- 「今井ィ、いいのかよ、上司に逆らって」(中略)「いいんだよ。たった一年の辛抱。そうしたら大阪から島崎さんが帰ってきて、俺は花の第一営業だから」
基本的にろくな会社に勤めたことのない私のような人間には、この引用文のようなセンテンスが鼻持ちならない印象笑。あと当時は、給料が亭主より圧倒的に高いという設定に優越感を感じている聖子の内面を憎たらしいと感じたことを覚えています。
- 甥と姪とは、聖子を「おばさん」と呼ぶが、博樹(夫)のことは「ヒロくん」だ。
- 「ねえヒロ君、あなたの会社って、派閥はあるの?」博樹に聞いてみた。(中略)牧歌的だなあ。うらやましかった。競争しないという人生もある。
- 「おれたちいくつだっけ?」「今年で三十六」「オノ・ヨーコがショーンを産んだのは四十二歳。マドンナがガイ・リッチー監督の子を産んだのも四十いくつ、探せばもっといると思うけど」憂鬱が吹っ飛んだ。
しかし、夫・博樹は神経をすり減らすこともなく、趣味のオーディオに幸せを見いだして、人生を達観したように余裕綽々です。出世欲と見栄が強い可愛い女房のことはをすべてお見通しで、聖子は釈迦の手のひらの孫悟空といったイメージです。私は博樹の境遇や生き方のほうが楽チンで共感が止まりません。とはいえ、いくつになろうが、令和の大不況になろうが、この手の話が嫌いな男は嫌いだと思います。野郎なんていう生き物は中学生くらいで精神年齢が止まっており、常に劣等感の塊という素顔を隠して生きていたりするものです。
『マンション』:好きでなかった話②
親友のマンション購入に触発された石原ゆかり(34)が青山に2LDKのマンションを買おうとする話。ゆかりは大手生保会社の広報課勤務で、年中、会社の役員連中に守られた秘書課とやりあっています。陰では「石原都知事」などと呼ばれており、思ったことを通そうとすると、その時の感情が表情に出てしまいます。「石原都知事の強硬姿勢」などと揶揄されるのは、そんな強気な内面のせいです。
- 「あと、とにかく都心がいいな。できれば港区」ゆかりが付け加えた。
- 「これ、何階なんですか?」「二階になります」「二階……」いきなり肩が落ちた。二階なんて十階建ての意味がない。
- そうか、めぐみも同じか。かつては二人とも定期的に「辞めてやる」と吠えていた。マンションを買ったら、自分も終身雇用を望むのだろう。
- 「(前略)こういうと嫌味だけど、わたしたちって高給取りの部類でしょ?それでも手が届かないのよ。それは勤め人は都会に住むなってことじゃない」
令和の現実を突きつけてやりたい。以上です。
- 「謙遜するな。押しが強いっていうのはいいことだ。どうだ、一度どこかの営業所のマネージャーをやってみるか。女性所長はまだ出とらんしな。君がパイオニアだ」
- (秘書課で常務たちにいじめられた後……)これまで社内で自由に振る舞ってきた。プライドが保てないようなことがあれば、いつでも辞めてやるという気構えでいた、それなりの学歴はあるし、英検二級でシステム管理の経験もある。なにより自分は若い。若い—?胸がざわついた。
- あーあ、言っちゃった。心臓が高鳴っている。
パワハラ常務に令和の現実と常識を突きつけてやりたい。気付いたら、何故か、ゆかりを一生懸命応援していました。以上です。
『ガール』:好きでなかった話③
広告代理店勤務の滝川由紀子(32)が桜田百貨店の新装なった婦人服のイベント企画に先輩の光山晴美(38)と一緒に取り組む話。由紀子は就職氷河期に300人に1人という難関を突破したエリートです。この熾烈な椅子取りゲームに勝ち抜いた自信があるせいか、どことなく態度がデカく描写されています。ディスコで踊り、社外のスノボサークルに入っているようなタイプで、同じ課の25歳の後輩がフラワープリントのシャツを着ているだけで、春を先取りされたと対抗心を燃やすバブリーな自称イケてる女性をイメージしてもらうとよいでしょう。
- 二人でブーたれた。女のクライアントだとどうも勝手が違う。おじさんのほうがずっと楽だ。
- 十人並み以上のルックスに恵まれたおかげで、学生時代から「おいしい」思いをしてきた。コンパニオンのアルバイトはほとんど特権といってよく、化粧品のサンプルはどこからともなく回ってきた。ディスコは顔パスで、合コンの申し込みは引きも切らなかった。
- (同窓会にて)「ねえ。うちらだってブルーだよ」由紀子が言った。「いつまでこういう生活してていいのかわからないし、自由なんて不便なことばっかだし」
- (ディスコの隣りの男性トイレの声を聞き)みるみる血の気が引いた。個室に入り、胸の動悸を抑えた。おばさん。若作り。なんて殺傷能力のある言葉なのか。自分に向けられたら、ショックで一月は寝込みそうだ。
令和のSNSの言葉を見せてやりたい。すべて「勝手にボヤいておいてくれ」と思わせるステレオタイプな内面描写ばかりです。
以上が苦手だった話ですが、時が経ち、五十半ばのオッサン目線で読むと、奥田さんは安月給でうだつが上がらない男の器の小ささを挑発しているようにも読めます。露骨なまでに女性雑誌に出てくるような固有名詞を連発するのはその証拠でしょう。また、この作品集に登場する女性はすべて安定した職にありますが、令和の今となっては、かなり危うい会社・業種があることも、私の読む視点が変わった要因です。主人公のガールたちよ、新元号はそんなに甘くないぞ。カネだけは貯めておけよ、俺みたいになるなよ……読み直してみて、主人公たちに感情移入している自分に気付かされました。
あと、ポイントは話が終わった時、嫌悪感が残る人物がほぼいないことでしょう。偉才はこれらすべてを、やはりアドリブで書いてしまったのでしょうか? このへんが奥田英朗の根っこに流れる「誰も裁かない」という姿勢の表れなのだと考えます。
『ワーキング・マザー』:オススメ①
山田太一ドラマのほのぼのした人情味あふれるシーンをつないだような傑作。自動車メーカーに入社14年目の平井孝子はバツイチのワーキングマザーです。残業のない総務部で3年ほど働きましたが、営業育ちの血が騒ぎ、やりがいを求めて異動届を提出、元の部署に戻ることが実現します。この話では新しいキャンペーン用ウェブサイトの立ち上げに携わります。ただし、販売部との合同プロジェクトであるため、仕事では緊張感あふれる軋轢が……とはいえ、胃がキリキリするような部分は僅か。むしろ、印象に残るのは、実家が遠く離れた北海道であるため、子供を学童保育やホームヘルパーに預けながら、子育てを言い訳にせず、ひとりで強く働くことの難しさでしょうか。
本筋とはかけ離れますが、孝子が息子の祐平君とキャッチボールをしたり、逆上がりをするために、同僚がアドバイスを送ったりする場面がいくつか登場します。奥田ファンならご存知の通り、奥田さんはスポーツに詳しく、また、抜群の運動神経の持ち主です。令和の今となっては、ありふれた助言ばかりなのでしょうが、当時、このようなアドバイスをスッと書ける作家さんは珍しいと思ったことを記憶しています。ただの感動話では済ませられないディテールに凝りまくった名作です。
『ひと回り』:オススメ②
老舗文具メーカーの営業三課の小坂容子(34)は入社13年目。そして、ついに入社10年以上の社員に巡ってくる「新人の個人指導にあたる指導社員」の順番となります。ところがといいますか、ラッキーといいますか、新人君はチョーの付くイケメン。しかも、素直で真面目な性格という出来過ぎたキャラクターのため、たちまち社内外の人気者になってしまい、指導係の容子はいちいちヤキモキしてしまうのです。友人からは「意識していないといったらうそでしょう」と図星を指され、さらには、ほかの部署の女性社員からは「怖い指導社員」と陰口を叩かれるようになってしまう訳です。こんな感じで、作名の『ひと回り』のひとつの意味は新人君との年齢差のことを指します。
この話で笑ってしまうのが、テレビ局と広告代理店の社員との合コンではないでしょうか。バブリーな話かと思いきや、なんと、容子が左右に挟まれるのは、舘ひろし似と神田正輝似です。しかも、揃いも揃ってノータイでシャツのボタンを3つ外しており、容子まで石原軍団の仲間入りを果たしてしまいます。これはハズレでしょう。あとは買って読んでください。私は神田正輝さんの大ファンなので、最後の最後にもゲラゲラ笑ってしまいました。もし疲れているようでしたら、私はこの話をオススメします。
最後に……笑
この本を面白いと勧めるのはどうかなあ……と思っていたのですが、刊行から18年経ち、私も時代も大きく変わりました。女性からの支持が高い作品という認識を持っていましたが、奥田英朗を愛する男にとってもやはり名作です。そして、昭和ほどではないけれど、それなりに元気だった平成の記憶が蘇ってきて前向きな気持ちになれるはずですよ。また『マンション』『ヒロくん』あたりをじっくり読んでおけば、このオッサンの人生はもう少し気楽で、マシなものになっていたのかもしれないとも思ったりしました。貯金って本当に大切です笑
※これで奥田英朗という人の魅力が一発でわかる?
平成の家族シリーズ『家族日和』『我が家の問題』『我が家のヒミツ』☟
珠玉のエッセイ集『どちらとも言えません』『野球の国』『田舎でロックンロール☟
WOWWOWドラマ化作品『真夜中のマーチ』☟
※最新作『リバー』について書いています☟
このミス初登場!二文字作品の第1弾『最悪』について☟
※大出世作『邪魔』と『東京物語』について☟
※二文字作品の第3弾にして不朽の大傑作『無理』
※東京オリンピック作品 第2弾『罪と轍』について☟
※奥田作品の中でも屈指のバッドエンドと最悪の読後感『沈黙の町で』☟
※奥田ブンガク史上、最もお下劣な大傑作『ララピポ』
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