- これぞ、狂気に満ちた令和ケイオス!飛び散る内蔵、弾け飛ぶ人間のあらゆる欠片……サイキックドクターが複雑怪奇な世界へと誘う『エレファントヘッド』に度肝を抜かれた!~2024年版「このミステリーがすごい!」ベスト20
- ここからは角川書店の「絶対に事前情報なしで読んでください」の注意書きに抵触します。ネタバレも含まれますので、その点をご了承の上、お読みください<(_ _)>
- このミスの書評家たちも「いったい俺は何を読まされているんだ?」と感想を呟く前代未聞の猟奇的ミステリー
- 米澤穂信が横山秀夫になっちゃった?なんと、警察短編ミステリー集『可燃物』の舞台は“警察小説の巨匠”のお膝元である群馬県だった!
- 「情報の汚染はどこから始まったのか?」SNS社会への警句のような『ねむけ』ほか、ドラマ化への期待を膨らませる全5作!
- 地域も順番もなくコロナワクチンを打ちまくり、最低人気のワイドショーに出演してお茶の間の話題をかっさらう!あの天才精神科医がアフターコロナの令和ディストピアに舞い降りた!
- 客に向かってドッグフードをぶん投げ、炎に包まれたライブハウスではついにスプリンクラーが作動!マユミちゃんがグランジバンドを率いるカリスマになっていた?!
- 以下はネタバレなので要注意。過呼吸症候群、失語症、広場恐怖症、社交不安障害……天才(?)精神科医のぶっ飛び行動療法が読み手の心を癒し、清々しいまでの解放感をもたらす!
これぞ、狂気に満ちた令和ケイオス!飛び散る内蔵、弾け飛ぶ人間のあらゆる欠片……サイキックドクターが複雑怪奇な世界へと誘う『エレファントヘッド』に度肝を抜かれた!~2024年版「このミステリーがすごい!」ベスト20
順位 | タイトル | 著者 |
---|---|---|
1位 | 可燃物 | 米澤穂信 |
2位 | 鵺の碑 | 京極夏彦 |
3位 | あなたが誰かを殺した | 東野圭吾 |
4位 | エレファントヘッド | 白井智之 |
5位 | アリアドネの声 | 井上真偽 |
6位 | 木挽町のあだ討ち | 永井紗耶子 |
7位 | 君のクイズ | 小川哲 |
8位 | 世界でいちばん透きとおった物語 | 杉井光 |
9位 | 鈍色幻視行 | 恩田陸 |
10位 | ちぎれた鎖と光の切れ端 | 荒木あかね |
11位 | 午後のチャイムが鳴るまでには | 阿津川辰海 |
12位 | 11文字の檻 | 青崎有吾 |
13位 | 十戒 | 夕木春央 |
14位 | 鏡の国 | 岡崎琢磨 |
15位 | 焔と雪 | 伊吹亜門 |
15位 | 777 トリプルセブン | 伊坂幸太郎 |
17位 | アミュレット・ホテル | 方丈貴恵 |
18位 | 金環日蝕 | 阿部暁子 |
19位 | 魔女の原罪 | 五十嵐律人 |
19位 | ローズマリーのあまき香り | 島田荘司 |
対象は2022年10月—2023年9月。本稿をリライトしているのが、2025年6月15日の夜です。あちゃー、完全にやってしまいました。3月とは言いません。5月のゴールデンウイーク、いや、なんなら今朝でもいいや。戻りたい、やり直したい……要するに競馬の話なのですが、これからご紹介する本の説明のために、ちょうどいい例えになると思うので、少しお付き合いください。
宝塚記念は勝った武豊騎手騎乗のメイショウタバル(1着)から買っていました。スイスイ、単騎逃げが見込めそうなメンバー構成、馬場・距離・コース適性と条件がばっちり揃って大本命です。我らがオッサンたちの星、天才ユタカ、ばんざーい……
……となるはずが、競馬を買ったことのある人ならわかると思いますが、自分の馬ばかり見ていて、ほかの馬をろくに見ていないというのは往々にしてよくあること。レース後、結果と馬券を見比べますと、3連単のベラジオオペラの2着付けだけが綺麗にありません。そして、極め付きは普段は単複勝負しかしない人間が、あろうことか、単勝11.4倍を一銭も買っていなかったことです。前日の雨で「大荒れになる」という予想に変な自信が出てしまい、買い目を増やし過ぎて、手が回りませんでした。
結局、諸悪の根源は2025年春を通してのマイナス〇万円という収支。連戦連敗で築き上げた大赤字をまとめて取り返そうとした卑しい根性が敗因の根っこにあるのであります。そして、このツキのなさを遡りますと、すべての始まりは、そう、まだ財布にだいぶ余裕のあった3月30日、高松宮記念のこと……
とまあ、こんなことを考えていたら、白井智之さんの4位『エレファントヘッド』のイントロを思い出した訳です。主人公は精神科医で、神々精医科大学附属病院に勤務する象山晴夫。妻はローカル局制作のドラマ中心に活躍する女優、長女は大学生の傍ら、覆面ユニットでヴォーカルを務めるブレイク寸前のアーティスト、次女はアルバイトのシフトがパンパンで毎日が大忙しの大学生という最高に幸せな家庭を構えています。しかし、それはあくまで表向きの顔。その正体は妻の周囲を嗅ぎ回る者の頸動脈を平気でメスで刻み、胎児売り渡しに手を染めた産婦人科医を死体処理係として操るサイキックドクターです。
ところが、ある日、長女が「明日彼氏を家に連れてくる」と言い出したことを発端に、無敵のサイキックはもっとイカれ狂った方向に突っ走り始めます。象山はその彼氏が好きだという台湾ビールを買いに出掛けたところ、帰り道、おっぱいパブでカネもないのに「おっぱいを揉んでしまった」すきっ歯の男が、眉のない店員にボコボコに蹴られている現場に遭遇します。そして、象山は「二時間言うことを聞く代わりにカネを払ってやる」と条件を突きつけ、ラブホテル「ガネーシャ」ですきっ歯と援助交際してしまうのです。その翌日……
ここからは角川書店の「絶対に事前情報なしで読んでください」の注意書きに抵触します。ネタバレも含まれますので、その点をご了承の上、お読みください<(_ _)>
「昨日、一万円くれたおじさんじゃないですか」
長女が連れてきた彼氏は、なんとこのすきっ歯だったのです。窮地に立たされた象山がすがるのがシスマというドラッグ。なじみの売人から買った「自らの頭をかち割り、脳を掻き出すほどの快楽をもたらす」、でも「作用する確率がきっかり50%」のこのクスリがキマった場合、「もしも、あの時に戻れるなら…」の“あの時”が実現して別の未来を持つ時間軸が生まれます。
そして、この“分岐小説”が強烈なのはここから。“あの時に戻った象山”はドラッグを使っていない訳ですから、望む時間まで遡ることができます。つまり、“あの時の象山がさらに時間を遡ったあの時の象山”となり……という具合に売人からドラッグを買った瞬間まで戻ることが可能で、複数の象山が実在する空間なのか、時間なのか、読み手の脳のバッドトリップなのか、なんとも説明し難い状況が生まれることになります。
平たく「競馬で負けた私」に置き換えて説明するなら、「プラスだったあの日の私」「分不相応に大きく勝負に出た桜花賞の私」「ダービーを買わない競馬ファンはいないという浅はかな理由で、買いたい馬もいないのに手を出してしまった私」、そして「このどん底では大穴狙いで取り戻すしかなかった今日の私」とでも説明できましょうか。 要するに人間が異なる状況・時間の姿に分裂して、複数の人生がスタートし、交錯し始める訳です。
このミスの書評家たちも「いったい俺は何を読まされているんだ?」と感想を呟く前代未聞の猟奇的ミステリー
このイカれまくっているようでいて、極めてロジカルな話は、私のような直情径行型には感覚的にしか読み解くことができず、キテレツでグロテスクな世界観に圧倒されるだけ。といいますか、ここまで書いてきた説明が当たっているのかどうかさえ、定かではありません。実際『このミス』のレビューアーも……
「いったい俺は何を読まされているんだ?」
「何も言えない、語れない」
「作者の頭を覗いてみたい」
といった紹介の仕方をしています。
猟奇的で徹底的にインモラル、それでいて、超複雑な構造を持つ本格ミステリ。やたらと内臓から何から飛び散るので、ダメな人はまったく受け付けないと思います。しかし、エログロのセンテンスだけで面白く、そっち方面が好きなら大好物なはずです。また、古来、漫画で描かれてきた「複数の自分が脳内で問答する場面」を極限まで難解に描いた作品とでも言ったらよいでしょうか。ひとりの人間が分裂して自分同士で口喧嘩をしたり、ルールを決めたり、犯人捜しの知恵を出し合ったりする光景は、“自分はまともだと思っている者同士”だけで構成される異常社会のようで笑えてきます。
そして、この超絶技巧話を笑って読ませるには、超人的な緻密な思考とかみ砕いてわかりやすく話せる説明力が不可欠。作者の白井さんは1990年生まれで、2023年の刊行時、まだ33歳という若さなんだとか。常人の理解を超えたいわゆる天才だと感じた人ばかりではないでしょうか。それでなんですが、これって大傑作ということで良いんですよね? なんでも競馬脳で考える私には、未だよくわかんないというのが正直なところです笑
米澤穂信が横山秀夫になっちゃった?なんと、警察短編ミステリー集『可燃物』の舞台は“警察小説の巨匠”のお膝元である群馬県だった!
さて、2024年度版の一般的な注目は「1位の米澤穂信VS2位の京極夏彦」だったのではないでしょうか。勝者は『このミス』の絶対王者ともいえる米澤さん初となる警察ミステリー短編集『可燃物』でした。この快挙はファンとして大喝采。しかも、主人公・葛警部が配属されているのは、なんと“群馬県警刑事部捜査一課”というから驚きです。太田、藤岡、前橋、高崎、伊勢崎、榛名山……具体的な地名の数々を目にした瞬間、『第三の時効』『陰の季節』『動機』などを紡ぎあげた横山秀夫さんへのリスペクト?と感じた人も少なくないでしょう。思い切り横山さんがむかし勤めていた「上毛新聞」を意識させる「上野新聞」も出てきます。
実際、葛警部はどんなに疎まれようとも、上には忖度せず、部下を駒のように適材適所に走らせます。被害者にも加害者にも感情移入しない結果至上主義は『第三の時効』に登場する楠見正俊(公安上がり)あたりの結果至上主義と少しダブる部分がなくもありません。“激シブ“の全5話の概略は以下の通り。いずれも、交通の便が決して良いとは言えない群馬県という土地の特性と、そこで暮らす人々の生活が絶妙に描かれている点も白眉です。
話の概要 | |
---|---|
崖の下 | ゲレンデ外の崖からスノーボーダー二人が転落、うち一人が死亡。犯人はもう一人しかいないのだが、凶器は見つからない。不可能犯罪はどうやって起こったか? |
ねむけ | 強盗事件の容疑者が交差点で真夜中に衝突事故を起こす。目撃者は4人。不自然なまでに供述が一致しており、しかも、容疑者の言い分と正反対である。容疑者と利害関係のある人物がいるのか?真相は? |
命の恩 | 榛名山麓にある木道で発見された右上腕骨。ただちに警察犬による山狩りが行われ、遺体の身元が判明する。なぜ犯人はすぐ発見され、身元が特定されるような場所にバラバラにした腕を捨てたのか? |
可燃物 | 住宅地のゴミ集積所で起こる連続不審火。厳戒態勢が敷かれる中、あるゴミ集積所をじっと見つめる老人が目撃される。その老人は7年前の倉庫火災事件の倉庫責任者だったことがわかり… |
本物か | 傷害事件の犯人を護送中、ファミレスで立てこもり事件が起こったとの通報。無事に店外に出られた店員によると「逃げろ」という店長の声があったという。しかし、声の主は行方不明で… |
「情報の汚染はどこから始まったのか?」SNS社会への警句のような『ねむけ』ほか、ドラマ化への期待を膨らませる全5作!
あえて好きな話をひとつ選ぶのであれば『ねむけ』でしょうか。主人公の葛警部は強盗致傷の容疑者を信号無視の別件で引っ張る際、口裏を合わせたように“クロ”で一致している4人の目撃者の証言にすぐ疑念を抱くというか、これが真実ではないと確信します。
世間からの注目が大きな事件について捜査をする場合、得られる証言のほとんどは受け売りになる。テレビや新聞、ネットで報じられたことを、さも自分の目で見たかのように証言する者は多く、時間が経つほどそうした人間は増えていく。(中略)
そうだとして、情報の汚染はどこから始まったのか。言い換えるなら、噂の出所はどこか。
SNS社会への警句が作中に含まれることが多い昨今。昭和世代からしてみると「凶悪犯罪に手を染め、何人もの人生を破綻に追い込んだ“絶対悪”であると認識していた存在」が、恐ろしいことに「善」に書き換えられるのが令和です。ついにはそれらが政治の世界まで侵食し、支持を獲得するという狂った時代になってしまいました。
この話の肝は「現実と情報の乖離」ではないでしょうか。詳細は結末に直結しますので差し控えますが、多くの人にとって、今という時代は間違っても輝かしいものではない。また、SNSの伝聞の伝聞で知った話を、いつの間にか、信じ切ってしまい、あたかもその場で見てきたように話す人は少なくないように思います。これが濁流となった時に起こる間違いは……昨今、世間を賑わわせる社会問題を持ち出すまでもないでしょう。そして、その恐ろしさをサラリと教えてくれるのが、この話であると考えます。
ちなみに、この一冊を“激シブ”と例えましたが、スマホやドライブレコーダーなど、現代的な小道具を取り除けば、そこにあるのは私が知る平成初期あたりの群馬県そのもの。『ねむけ』で言いますと「ファミレスに立ち寄ってイワナ釣り」など、具体的な庶民の行動パターンまで出てきます。まあ、何はさておき、いずれドラマ化は決定でしょう。刑事もののドラマで育ったオッサンたちが長らく楽しめそうな警察小説が誕生したことだけは間違いありません。



地域も順番もなくコロナワクチンを打ちまくり、最低人気のワイドショーに出演してお茶の間の話題をかっさらう!あの天才精神科医がアフターコロナの令和ディストピアに舞い降りた!
さて、みなさま、お待ちかねの奥田英朗さんの出番です。トンデモ精神科医・伊良部が、シリーズ第4弾『コメンテーター』で17年ぶりに帰ってきました。ミステリーではないので、当然、このミスではランク外ですが、第2弾『空中ブランコ』が直木賞受賞作ですし、過去のシリーズ作品がコミック化されているので、奥田さんのことをお好きな方はとっくの昔に読まれていると思います。今回の注目すべき点は、収録されている全5作中4作が2021年から2022年、つまり、コロナ禍に発表された作品だということ。残る1話にしても孤独な株式デイトレーダーの話。これも時宜とこの短編集の色合いに適っていたということでしょうか。
まず、このシリーズをご存知のない方に設定を駆け足でご説明。主人公の伊良部一郎は戦前から政治家が逃げ込むほど、歴史ある伊良部総合病院の心療内科の精神科医。父親は伊良部総合病院院長ほか、全日本医師会理事などの要職を務める権力者で、この世にカネで買えないものはありません。もともと小児科医でしたが、患者の子供と喧嘩してクレームが殺到したため、神経科に転科した経歴があり、自他ともに認めるマザコン。ただし、意外なほど、患者から慕われているというのが七不思議だったりします。
治療のアプローチは一貫して「行動療法」。これは奇しくも、逢坂剛氏の『まりえの客』『デズモナーナの不貞』などに登場する精神科医と同じ。薬に頼らないことを治療のモットーとしています。そして、この方針が生き過ぎて突拍子もないショック療法を施すことがしばしばあり、“トンデモ医師”と称されるのはこのためです。
客に向かってドッグフードをぶん投げ、炎に包まれたライブハウスではついにスプリンクラーが作動!マユミちゃんがグランジバンドを率いるカリスマになっていた?!
バディは無愛想な看護師のマユミ。伊良部の注射フェチを満足させるべく、診療にやってきた患者にビタミン注射を打つ担当。セクシーなミニスカートと胸元が開いた派手な制服を着ていますが、相応にプロフェッショナル。ただし、恋愛関係どころか、伊良部を下に見ている節もあります。
なお、17年前の『町長選挙』ではパンクバンドのギタリストだったのが、シリーズ第4弾ではアンダーグラウンドでカリスマ的な人気を誇る「ブラック・ヴァンパイア」を率いるヴォーカリスト兼、ギタリストになっていました。サウンドはグランジとされていますが、ボブ・ディラン的かもしれないという感想も。クラシックしか聴いたことのない人の心を打つほど詩情に満ちた歌詞を書ける才能も明らかにされます。しかし「犬(?)」という曲では、客との罵り合いのようなコール・アンド・レスポンスでドッグフードを投げ合うように、アナーキーなキャラクターは従来のままです。
以下はネタバレなので要注意。過呼吸症候群、失語症、広場恐怖症、社交不安障害……天才(?)精神科医のぶっ飛び行動療法が読み手の心を癒し、清々しいまでの解放感をもたらす!
さて『コメンテーター』に収録されている作品は以下の5作。スラップスティックに突っ走る奥田流の即興あり、令和を生きる我々が心に抱える問題の核心を突く鋭利な風刺あり、心温まる世代を超えた人間の交流あり。ややコミック化を意識し過ぎたきらいもありますが、ファンならずとも、この完成度なら大満足でしょう。詳細を知りたくない方は飛ばしてください。
作品名 | 症状と病名 | 伊良部が施した治療方法 |
---|---|---|
コメンテーター | 新型コロナウイルスの蔓延により、午後の新参ワイドショー番組のディレクターを命じられた畑山圭介は、視聴率が1.6%と低迷し、プロデューサーに怒鳴られ続けるストレスの中で追い詰められる。番組の危機的状況が続くため「パイオツカイデーな精神科の女医を連れてこい」という無茶な命令を受け、大学時代の伝手を頼るが、なぜか伊良部に辿り着いてしまう。畑山は伊良部とマユミのスタジオでの暴走ぶりに悩まされるが、精神を極端に病んでいる訳ではない。 | 畑山だけでなく、番組スタッフにコロナワクチンを打ちまくり、番組では放送事故級の過激発言を連発。しかし、ウイルス感染をゾンビに例えて「ステイホームと集団免疫」を説明するなど、突飛だが核心を突いた発言もあって人気者となる。マユミもカリスマ的人気を得て番組の目玉となる。 |
ラジオ体操第2 | オフィス機器メーカーに勤める福本克己は、煽り運転に再三遭い、過呼吸症候群に悩まされている。これがエスカレートし、スケボーで遊ぶ公園の不良少年を見ただけで過呼吸を起こすようになり、伊良部総合病院を訪問。「アンガーマネージメントができず、怒りを表に出せない日本人の典型」と伊良部に一刀両断にされてしまう。 | 福本を自分のポルシェに乗せ、わざと煽り運転の犯人にオカマを掘らせて、交通事故を誘発し、警察に連行させる復讐を敢行。このほか、元ヤクザと一緒に「怒る」ことの実地訓練を渋谷で行うなど滅茶苦茶。 |
うっかり億万長者 | 無職の河合保彦は株のデイトレードで10億円を稼ぐが、パソコンから離れられず社会から孤立。伊良部の母が犬のパンジーを散歩中、公園で食べていた弁当のソーセージをパンジーに見せびらかせ、からかったら、指をかじられ、伊良部総合病院に連れて行かれる羽目に。そして、久しく他人と話しておらず、パニック障害と判断されたため、心療内科の伊良部のもとへ回される。伊良部は失語症の症状を指摘。 | 伊良部とマユミが河合の自宅まで往診に出向き、銀座の寿司や高級中華の出張サービスを呼び、挙げ句の果てにタワマンやフベンツを買わせる。マユミはバンドの衣装代の請求書を回すほか、ライブハウス購入をせがむなど、ほぼ財布扱いにする。 |
ピアノ・レッスン | ピアニストの藤原友香は、リサイタルのため東京から大阪へ新幹線「のぞみ」で移動中、突然、得体のしれない不安に襲われる。その日は途中下車して各駅停車の「こだま」に乗り換えて移動することで対処するが、以降も長時間の乗り物移動や、リサイタルの観客席で四方を人に囲まれるような状況に置かれると、動悸やめまい、発作的な症状を発症するようになる。伊良部の診断は「広場恐怖症」だった。 | 「アーティストなんだからわがままに振る舞え」とアドバイスし、「まずは遅刻をすることから始めろ」という課題を出す。マユミは自身のバンドのキーボードのヘルプを懇願。バニーガールの衣装を着せてステージに立たせることに成功する。 |
パレード | 東北から上京した大学生の北野裕也は、コロナ禍のリモート授業を経て、対面授業が始まった途端、東北なまりを指摘されたことがきっかけで、人前で話すことができなくなる。飲み会では汗をぐっしょりかいて、他人から心配されるほどの重傷で、極度の緊張からくるチック症まで発症していた。伊良部の診断は社交不安障害だった。 | 同じく社交不安障害を抱える帰国子女の中学生の少年とともに、伊良部総合病院が運営する老人ホームに行かせる。老人たちとのコーラスや草むしりなどを行わせ、日常会話を通じて他者との関わりを実践的に学ばせる。 |
ご興味の湧きそうな話はありましたか? 個人的には『パレード』でしょうか。実は伊良部は少しイカれたシャイボーイなだけで、優秀な医師である側面が自然と表現されています。あと、奥田さんは少年の大人びた視線とナイーブな内面を描かせたらピカイチ。同病の大学生をいじくるマサル少年の傷を負った心を映す台詞と行動が印象的です。「アフターコロナ」「ハイパー高齢化社会」「いろいろな国の人々が共生する日本」など、令和のいまを象徴する場面が美しく散りばめられている点も白眉。お断りしておきますが、このシリーズは心を打たれるような本ではありません。しかし、私はなぜか感動してしまいました笑
以上、2025.0610改稿
※これで奥田英朗という人の魅力が一発でわかる?
平成の家族シリーズ『家族日和』『我が家の問題』『我が家のヒミツ』☟



珠玉のエッセイ集『どちらとも言えません』『野球の国』『田舎でロックンロール☟



WOWWOWドラマ化作品『真夜中のマーチ』☟

※最新長編『リバー』について書いています☟

このミス初登場!二文字作品『最悪』『邪魔』『無理』について☟



※東京オリンピック作品 第2弾『罪と轍』について☟

※奥田作品の中でも屈指のバッドエンドと最悪の読後感『沈黙の町で』☟

※奥田ブンガク史上、最もお下劣な大傑作『ララピポ』

※香里奈、麻生久美子、吉瀬美智子、板谷由夏の4人出演で映画化!『ガール』☟

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