- 『同志少女よ、敵を撃て』は掛け値なしの傑作!もう現実を無視して読むことは難しいのかもしれませんが、永遠に読み継がれてほしい冒険小説です
- 身元不明、動機不明、目的不明。でも、時は無情に過ぎ、爆破は起こる…爆弾クイズ王があなたの安っぽい倫理観を挑発し、心の闇へと貶める…
- 笑ってしまうほどの「北関東あるある」を散りばめながら、登場人物のサイドストーリーが驚愕の分厚さを生み出すことに成功!過去最高に登場人物の数が多い奥田群像劇『リバー』は問答無用の面白さ!
- それにしても、奥田センセ―はこれだけ大量の人物が登場する群像劇をまとめ上げたのにツキがない…普通の年だったら確実に上位争いに食い込んでくるキャラ大会の大傑作です!
- あの『リボルバー・リリー』の長浦京が生んだ非情と外道が規律の強き女!血まみれの戦後史『プリンシパル』は容赦なしの迫力で心に迫る!
- 2023年『このミステリーがすごい!』ベスト20
『同志少女よ、敵を撃て』は掛け値なしの傑作!もう現実を無視して読むことは難しいのかもしれませんが、永遠に読み継がれてほしい冒険小説です
対象は2021年10月ー2022年9月。まだコロナ禍でもあり、思い出したくもない出来事が多かったのは事実です。もう2024年版が刊行されますし「いずれ書けばいいや」くらいに思っていたのですが、やはり区切りは区切り。けじめとして振り返っておきたいと思います。なお、このミス上位作品が現代の予言書となってしまったり、現実と奇妙な符合を見せた事例につきましては、以下のリンクなどで多少触れています。
『機龍警察 白骨街道』について
![](https://i0.wp.com/mushikiba.com/wp-content/uploads/2024/05/EP2GS6jl.jpg?resize=160%2C90&ssl=1)
『仮想儀礼』について
![](https://mushikiba.com/wp-content/themes/cocoon-master/screenshot.jpg)
『ジェノサイド』について
![](https://i0.wp.com/mushikiba.com/wp-content/uploads/2024/05/dhsMYDkl.jpg?resize=160%2C90&ssl=1)
早川書房から凄まじい才能がデビューするとTwitterで知り、何も考えずに手に取ったのが、逢坂冬馬さんの7位「同志少女よ、敵を撃て」です。評判に違わぬスリリングな面白さで、何が撃つべき悪なのか?そいつはどこにいるのか?などと真剣に考えさせられました。なお、私が読んだのは刊行直後のことです。この一冊と主人公・セラフィマへの思いにつきましては、一読者がとやかくコメントしても意味がありません。生みの親である逢坂さんの本屋大賞受賞のスピーチをぜひご覧ください。
確かに現実の戦争を無視して読むことはもう難しいのかもしれない。でも、セラフィマの心の揺らぎを追いかけながら、少しだけ穏やかな気持ちで再読しました。冒険小説として、ガンアクションとして、少女の成長譚として、純粋に楽しめましたよ。つい先日、逢坂さんは2作目『歌われなかった海賊へ』を発表。『同志少女よ、敵を撃て』はアガサ・クリスティ賞受賞作品です。今度こそフラットな目線でもっと多くの人に読まれ、純粋に実力を評価されることを願っています。
身元不明、動機不明、目的不明。でも、時は無情に過ぎ、爆破は起こる…爆弾クイズ王があなたの安っぽい倫理観を挑発し、心の闇へと貶める…
さて、2023年版は1位予想が珍しく的中し、妙に納得しました。それほど、呉勝浩さんの『爆弾』は令和ディストピアの本質を見事に突いていて、面白かった。このように感じられた理由は、最強の犯罪者「スズキタゴサク(49)」は今なら近所に住んでいても不思議のないサイコ野郎だからでしょう。確かに未曽有の大不況や腐敗しきった無策の政治への怒りなど、犯罪者にも三分の理はある。一方で、というか、同時に、令和という時代は常識にかからない考え方をする狂人を生み出しているように思います。
話の大筋をざっと。ドラゴンズがジャイアンツに負けたという理由で、酒屋の自動販売機を蹴とばし、店員に乱暴をはたらいて、連行された冴えない男、それがタゴサクです。取り調べで坊主頭の十円ハゲは刑事の尋問をのらりくらりと交わしますが、「霊感に自信がある」と口にした直後、その予告通り、秋葉原のビルの空き部屋で爆発が起こります。そして、タゴサクは「一時間ごとにあと三度の爆発が起きる」と告げるのです。爆弾のあり処を聞き出そうとする刑事たちを、無邪気にクイズで弄ぶタゴサク。身元不明、動機不明、目的不明。でも、時は無情に過ぎ、爆破は確実に起こる……始まりはこんなところでしょうか。
人質はその時、東京近郊にいる私たち。そして、絶対優位のタゴサクは取調室でのやりとりで、命の不平等、可能性の格差、偽善者を装ってもホームレスの腐臭の前に隠し切れない生理的な反応…など、具体的な根拠を持って、刑事たちが口にする安っぽい倫理観を論破し、いつしか、当人が思い出したくもない過去やそれぞれが抱える心の闇に直面させるのです。ぜひ、2023年版のこのミスに掲載されている呉勝浩さんのインタビューを読んでほしい。どの映画に想を得てタゴサクVS刑事のクイズ対決が生まれ、どうやって先がまったく見えず、無軌道に動く話が書かれるのかが説明されています。この手法で執筆されている以上、読み手に着地点など、わかるはずがないと腑に落ちるはずです。問答無用の傑作!
笑ってしまうほどの「北関東あるある」を散りばめながら、登場人物のサイドストーリーが驚愕の分厚さを生み出すことに成功!過去最高に登場人物の数が多い奥田群像劇『リバー』は問答無用の面白さ!
9位の奥田英朗さん『リバー』も安定の筆力を超えて面白かった。群馬県南や栃木県南あたりを少しでも知っている人なら、いかにリアルな作品であるかが理解できるはずです。久しく帰省していない私でさえ、ステレオタイプな人物の造形に奇妙な親近感・嫌悪感・既視感を覚えるほど。駅周辺の情景、個人情報を平気で漏らすレンタカー屋、場末のスナックで繰り広げられるホステスと客のやりとり、ヤクザと産廃業者の関係…どこを取っても、奥田節全開、「北関東あるある」が香ばしい匂いを放っています。
事件はパパ活女性連続殺人。群馬県桐生市の渡良瀬川河川敷で他殺体が見つかり、その数日後、対岸の栃木県足利市でも同様に遺体が発見されます。10年前、同じような女性が殺害される事件が起こりながら、迷宮入りさせてしまった黒歴史があり、群馬・栃木両県警はすぐに反応し、色めきだちます。また、このような経緯から、警察庁が乗り出し、今回は情報の出し惜しみやメンツ合戦などを回避する目的で、合同ではなく「共同捜査本部体制」が敷かれ、両県警はそれぞれの事件を追い始めるのです。
それにしても、奥田センセ―はこれだけ大量の人物が登場する群像劇をまとめ上げたのにツキがない…普通の年だったら確実に上位争いに食い込んでくるキャラ大会の大傑作です!
例によって登場人物の造形が素晴らしく、存在感は圧倒的。一人ひとりの人生や事件に賭ける思いがサイドストーリーのように展開され、個人を追いかけても十分な奥行が感じられるほど見事です。例えば、群馬県側では、10年前に犯人に娘を奪われた写真館経営の松岡芳邦の狂ってしまった人生。片目の視力に異変を感じながら、河川敷に現れる不審人物の写真を撮り続け、容疑者を追う姿はどこか狂気じみています。栃木県側では栃木県警捜査一課の元刑事・滝本誠司のやり過ぎ。仮に現役刑事であっても非合法な手段で立ち回る姿は異様とも思える執念です。このほか、壊れ方がぶっ飛んでいる3人の容疑者はもちろん、個性的な両県警の刑事、女性新米記者、容疑者と肉体関係にあるスナックのママなどのキャラクターがキリリと立っている。奥田氏が描いた群像劇の中では一番登場人物が多い(?)と思われ、いわゆる先を知りたくて徹夜してしまうような一冊。お正月などに最適だと思います。
※これで奥田英朗という人の魅力が一発でわかる?
珠玉のエッセイ集『どちらとも言えません』『野球の国』『田舎でロックンロール』☟
![](https://i0.wp.com/mushikiba.com/wp-content/uploads/2024/01/SJYFDrgn.jpg?resize=160%2C90&ssl=1)
![](https://i0.wp.com/mushikiba.com/wp-content/uploads/2023/12/a8_efwxv.jpg?resize=160%2C90&ssl=1)
![](https://i0.wp.com/mushikiba.com/wp-content/uploads/2023/12/GCL7EnTaUAATMdK.jpg?resize=160%2C90&ssl=1)
平成の家族シリーズ『家族日和』☟
![](https://i0.wp.com/mushikiba.com/wp-content/uploads/2024/05/1RkufKmt.jpg?resize=160%2C90&ssl=1)
![](https://i0.wp.com/mushikiba.com/wp-content/uploads/2024/05/dhsMYDkl.jpg?resize=160%2C90&ssl=1)
『罪の轍』について☟
![](https://i0.wp.com/mushikiba.com/wp-content/uploads/2023/06/4OLr6GjI-rotated.jpg?resize=160%2C90&ssl=1)
あの『リボルバー・リリー』の長浦京が生んだ非情と外道が規律の強き女!血まみれの戦後史『プリンシパル』は容赦なしの迫力で心に迫る!
あとは長浦京さんの5位『プリンシパル』は舞台が現代ではないという時点で、真っ先に思い出すのは『リボルバー・リリー』。しかし、こちらヤクザの父を嫌い、家を出ながら、跡取り代行を務めるこちらは史実に基づいた血まみれの犯罪小説です。手段を問わないほど容赦がなく、無類の強さで男を圧倒する女を描かせたら長浦京はやはり凄い!
以下では長浦京さんの作品について触れています。
![](https://i0.wp.com/mushikiba.com/wp-content/uploads/2024/05/RBlJ79DU.jpg?resize=160%2C90&ssl=1)
![](https://i0.wp.com/mushikiba.com/wp-content/uploads/2023/06/4OLr6GjI-rotated.jpg?resize=160%2C90&ssl=1)
🍎Apple Books🍎
👑2023年ベストブックが発表👑2023年ベストブック【#ミステリー】
『#可燃物 』#米澤穂信Apple Books にて作品紹介とブックレビューをチェックしてください👇https://t.co/cagKF3KOU1 pic.twitter.com/IwqZGxQuUz
— 文藝春秋 電子書籍編集部 (@bun_den) December 1, 2023
なお、2024年版の上位作品はTwitterを見ていて、途中でいくつかわかってしまいました。宝島社はいくつかの版元の大幅フライングに釘をさしておいたほうがいいです。1、2位はファンの数がそのまま結果になるんだろうなあと思ったので、SNSバレは仕方ないことなのですが。
拙作『可燃物』(文藝春秋)が、「このミステリーがすごい! 2024年版」のランキング1位となりました。ありがとうございます。思いがけない結果への驚きと戸惑いたっぷりのインタビューも収録されていますので、お手に取って頂ければうれしいです。 pic.twitter.com/l5mNky9EuI
— 米澤穂信 (@honobu_yonezawa) December 5, 2023
※1位は絶対王者初の警察小説のほうでした。京極さんは2位。なお、好きな作家さんが結構ランクインしているのに、ベスト20を一冊しか読んでいないという前代未聞の外し方をしたので、興味のある作品は正月あたりに読んで、感想を書いてみたいと思います。
2023年『このミステリーがすごい!』ベスト20
- 1位 爆弾 呉勝浩
- 2位 名探偵のいけにえ 白井智之
- 3位 捜査線上の夕映え 有栖川有栖
- 4位 方舟 夕木春央
- 5位 プリンシパル 長浦京
- 6位 爆発物処理班の遭遇したスピン 佐藤究
- 7位 同志少女よ、敵を撃て 逢坂冬馬
- 8位 大鞠家殺人事件 芦辺拓
- 9位 地図と拳 小川哲
- 9位 リバー 奥田英朗
- 11位 此の世の果ての殺人 荒木あかね
- 12位 ダミー・プロット 山沢晴雄
- 13位 #真相をお話しします 結城真一郎
- 14位 ループ・オブ・ザ・コード 荻堂顕
- 15位 録音された誘拐 阿津川辰海
- 16位 馬鹿みたいな話!昭和36年のミステリ 辻真先
- 16位 煉獄の時 笠井潔
- 18位 救国ゲーム 結城真一郎
- 19位 俺ではない炎上 浅倉秋成
- 20位 道尾秀介 N
コメント